「性の教育」をすすめるに
あたって
はじめに
現代の日本では、子どもと若者の性に関するさまざまな社会問題が山積している。中でも2024年の人工妊娠中絶件数は、約12万7000件を超え、24歳以下が全体の35%近くをしめている。これは、子どもや若者が十分な社会的サポートを得られていないことを意味している。「『ジェンダー』に関する女子高校生調査報告書2021自分のからだ」(公益社団法人 ガールスカウト日本連盟)の資料をもとに考えていきたい。
1. 子どもの現状
①あなたの受けた性教育で、最も心に残った教育はどれですか。
②その性教育は、誰により行われましたか。
③あなたが受けた性教育の環境について教えてください。
④あなたが受けた性教育は、どのような内容でしたか。
- 女性の心と身体について(87%)
- 月経(84%)
- 妊娠・出産(74%)
- 生殖(73%)
- 避妊(69%)
- 性感染症についてとその予防(68%)
- 男性の心と身体について(66%)
- 性行動(性交、sex)(54%)
- 人工妊娠中絶(52%)
- 避妊具などの具体的な使用方法(48%)
- 性暴力・デートDV(45%)
- ジェンダー・性差別(43%)
- 困ったときの相談窓口・公的機関(39%)
- インターネット等による性トラブル(37%)
- 性の多様性について(同性愛や
トランスジェンダーなどについて)(35%) - 不妊治療について(30%)
- 性の自己決定(27%)
- 婦人科の病気やガン(23%)
- わからない(4%)
⑤あなたは、性に関する情報をどこから得ていますか。
上記のデータから、
①表面的で実践的でない
②避妊、感染症に関しての内容が不十分
③ジェンダー、セクシャリティについての内容が不十分
④人権・人間関係についての内容が不十分
であることがわかる。
さらに、性教育をはずかしいものとする風潮や、それに準ずる教職員の態度、性についてからかうような周りの雰囲気が影響していると考えられる。
2.文科省「性教育」=性道徳
(性に対する規範意識)
性に関する内容について、現行の学習指導要領には、いわゆる「はどめ規定」が2カ所ある。小学5年の理科では、「生命・地球」で「人は、母体内で成長して生まれること」を取り上げる際に、「受精に至る過程は取り扱わないものとする」と記述。また、中学1年の保健体育科では、「心身の機能の発達と心の健康」として「思春期には、内分泌の働きによって生殖にかかわる機能が成熟すること。また、成熟に伴う変化に対応した適切な行動が必要となること」について生徒の理解を求めているが、その際に「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠までを取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」と示している。
この規定により、「成熟に伴う変化に対応した適切な行動が必要となること」をもとめ「受精・妊娠」は取り扱い、さらに「感染症予防」は求めるが「受精に至る過程」・「妊娠の経過」は取り扱わないという、非常に矛盾した内容になっている。

3.文科省の「生命(いのち)の安全教育」とは?
(1)文科省の「生命(いのち)の安全教育」ができた背景
性犯罪・性暴力を根絶していくために、加害者にならない、被害者にならない、傍観者にならないための教育と啓発を行う必要があると考え、2023年度から全国において「生命(いのち)の安全教育」が推進された。
(2)文科省の指導計画 (文科省:指導の手引きより)
【各発達段階における概要】

【各発達段階でのねらいを受けての指導計画例】
- 幼児期
- ・自他の尊重
・水着で隠れる部分
- 「じぶんのからだ」も「ほかのひとのからだ」も大切
- じぶんだけのたいせつなところ
- いやなきもち
- 小学校
- ・自他の尊重
・水着で隠れる部分
<1学年~4学年>
- 「じぶんのからだ」も「ほかのひとのからだ」も大切
- じぶんだけのたいせつなところ
- いやなきもち
<5学年~6学年>
- 自分だけの大切なところを知る。
- 自分とほかの人を守るためのルール
- 自分とほかの人との距離感が守れないときの対応方法
- SNSを使うときに気をつけること
- 中学校
- ・自他の尊重
(自分と相手の心・体の尊重)
<1学年>
- よりよい人間関係ってなんだろう?
<2学年>
- 性的な暴力とは?(デートDV)?
- もし性的な暴力の被害にあったら
<3学年>
- 性的な暴力とは?(SNS等を通じた被害)
- もし性的な暴力の被害にあったら
- 高等学校
- ・自他の尊重
(自分と相手の心・体の尊重)
- よりよい人間関係ってなんだろう?
- 性的な暴力とは?
(デートDV、SNS等を通じた被害、セクシャルハラスメント、JKビジネス) - もし性的な暴力の被害にあったら
(二次被害・不同意わいせつ・不同意性交等の条文など)
(3)問題点
基本的に性犯罪・性暴力対策がねらいとなっているため、2026年3月の改訂により「性的同意」が明記されたものの単発的で、限定的な予防教育の一つにしかなっていない。

足りない視点は・・・。
- 人間関係(上下・主従関係)・人権的アプローチ(対等)・ジェンダー平等教育・文科省の「性教育」・リスクに直面したときにアクセスできる機関などは学年に応じて入ってはいるものの、学習内容が細切れ、断片的であり、十分な学習内容とは言えない。
- 学習内容が、子どもたちの性に関する現実とかけ離れており、性的行為・性暴力の定義があいまいである。また、科学的に正確でなく、性を理解する内容としては不十分である。
- 各学校の判断により、体育科、保健体育科や特別活動を含む教育課程内外の様々な活動を通じて活用する」と明記されているだけで、教育課程に位置づけられていない。
- 性暴力に関する動画では、男子から女子へということが主になっており、男性から男性、女性から女性、さらには女性から男性という視点が結びつきづらい。性の多様性を含めた内容になっていないので、性暴力の構図が固定化されている。
4.わたしたちがすすめる「性の教育」とは
わたしたちは、これまで文科省のすすめる「性教育」とは異なり、
〈女子教育問題の3つの視点〉
- 性差別・性別役割分業の撤廃をする視点
- 男女それぞれが自立し、主体となる視点
- 男女それぞれが対等な関係を作り出す視点
をもとにした「性の教育」をすすめてきた。
しかし現在では、性を二極化してとらえるのではなく、多様な性があることをふまえとりくみをすすめていることから、以下のように文言の整理をした。
〈ジェンダー平等教育における3つの視点〉
- 性差別・性別役割分業の撤廃をする視点
- 一人ひとりが自立し、主体となる視点
- 一人ひとりが対等な関係を作り出す視点
「性の教育」とは・・・。
『性』=『生』とおさえ、性別に関係なく互いに支配・抑圧・差別のない人間関係を築き上げ、その関係の中で、自己の意思決定ができるための教育
☆「性の教育」によって、選択・判断・決定できる力を身につけ、対等と共生を原則とした人間関係を築きながら生きていくことができるよう、教職員一人ひとりがそれぞれの問題として考え、あらゆる場面でとりくんでいくことが大切である。
5.基本的な視点
(1)「性」によって差別したり、されたりすることがない生き方ができるようにする。
- 女らしさ、男らしさ、性による固定的役割にとらわれず、自分らしさを伸ばす
- LGBTQについて理解する
(2)自分と他者の体とその発達について、科学的に正しく理解する。
- 体のつくりの共通な面を押さえた上で、性的差異について知る
- 妊娠、出産、性交のしくみについて理解する
- 避妊や性感染症について理解する
(3)「性」を自分の問題としてコントロールし、自己決定能力を身につける。
- 性を自立の問題と密接に関係づける
- 自分が嫌なことに明確に「NO」といえる
- さまざまな性情報に対しての判断力をもつ
(4)平等で自由な人間関係を築けるようにする。
- 自分や他者にとって、したくないこと、好きでないことを強制したり、されたりしない
- 性的同意について、「YES」以外はすべて「NO」であると理解する
- 「性」の商品化は、性差別であり、対等な人間関係を阻害するものであることを学ぶ
おわりに
現在は、ユネスコなどが2009年に作った性教育の指針「国際セクシャリティ教育ガイダンス」の内容に基づく「包括的性教育」が世界の性教育のスタンダードになっている。
「包括的性教育」は、人権をベースとし、心身ともに健康で持続的に幸福な状態(ウェルビーイング)の実現が重要とされている。また、生殖についてだけでなく、人間関係を含む幅広い内容(性的同意・性の多様性・ジェンダー平等・コミュニケーションなど)を体系的に学ぶ教育であり、わたしたちがすすめている「性の教育」と基本的な考え方が一致している。
わたしたちは、これからも常に子どもたちを見つめる視点をもって、とりくみをすすめていきたい。
ジェンダー平等教育部会



